松村美乃里(まつむらみのり、愛称:みのりん)

1979年静岡市生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン科を卒業後、株式会社博展で空間デザイナーとして働く。結婚により退社しフリーランスで活動し、2018年に子連れで働ける「シェアアトリエつなぐば」をオープン、2022年に「さいかちどブンコ」をオープン。

ーー松村さんは草加エリアにお住まいですが、なぜこの場所を選んだのですか?

草加は夫の職場から自転車で行ける距離でした。自分も都内に出られる場所なので、縁もゆかりも何もない草加に引っ越してきました。

ーー草加市でつなぐばを始めようと思ったきっかけはなんですか?

もともと、東京のデザイン会社で、イベントや展示会の空間デザインの仕事をしていました。仕事自体はすごく好きで楽しかったんですが、イベント業なので毎日のように徹夜の日々が続いて生活に疲れてしまいました。そんな中、人間らしい生活がしたい、暮らしを大事にしたいとの思いがあり、結婚を機にフリーランスのデザイナーになりました。
娘が生まれ、私が自分の地元の静岡が好きだったように、娘も地元が好きと言ってくれるかなと思ったんです。でも、自分がこのまちをまだ好きになりきれていないのに娘がそうなるわけないなと。だから、娘がこのまちを好きになってくれるには何をしたらいいのかな、と考えました。
そんなときに、「わたしたちの月3万円ビジネス*」という草加市主催の講座に参加したんですが、そこに自分の「欲しい」がありました。
1回仕事を辞めて家庭に入った人は、新しく仕事をする時に不安があると思うんです。久々に社会復帰するので、自分なんかが…みたいな人が多くて。
好きなデザインの仕事で、自分のまちが自分自身が好きになれるような、街づくりに関係する仕事をしたいと思っていたことと、そういう人たちが 1 歩踏み出せる場所、不安をシェアしてワクワクを分かち合える場所が出来たらいいなっていうのが、シェアアトリエつなぐばの原点です。

ーーつなぐばの原点には、地域をより良くしたいという思いや、人を後押ししたいという気持ちがあるのですね。草加市についても詳しく伺いたいのですが、草加市にはどんな課題があるのでしょうか?

草加市は県内で 6番目に人口が多く、ベッドタウンでもあるんですけど、地元の方と新しく住み始めた方とのコミュニケーションが取れていないとか、仕事も買い物も全部都内や隣の越谷市などに行ってしまうとか。
草加市はただ寝るだけの町で、経済的にお金の落ちないような場所になっていました。女性は別に支援を求めている訳ではなくて、つながりを求めているというのが、私が参加した草加市のまちづくり検討委員会でも話が出ていました。
そういう、つながりが出来る場所と地域のニーズを掛け合わせたものが、今のシェアアトリエつなぐばをつくる基盤になりました。

ーーこれまで、運営で苦労したことを教えてください。

初めの1 年が一番大変でした。色んな人が関わっていて、色んな意見があって。一緒にやろうとしている人たちが、運営側と借りる側に分かれたことで、うまくいかなくなる事もありました。
そんな時は、つなぐばに対する思いや、皆の居場所、ひいては自分の居場所づくりをしていることを理解してもらうため、私たちの活動を見てもらおうと考えていました。

ーー始めた頃のお話が出ましたが、はじめから地域の人は来てくれましたか。

最初は、公園から何のお店だろうって覗いてもらえるくらいの距離感でしたが、コロナで営業がままならないなかで始めた、テイクアウトがきっかけで知ってもらう事ができました。
テイクアウトのついでに、ちょっとだけ軒先のマーケットに来て顔を見て、ちょっと話をして、地域との繋がりを感じてもらえて。その時から、色んな方が来てくれるようになって、徐々に入ってきてもらえるようになっていきました。なので、自分たちがまず外に出ていくというのが大事だなと思いました。

ーー始めた頃と比べて、いろいろなことが変化してきていると思いますが、どんな事が変化しましたか?

引っ越してきた当初は友達が0人で、子供が生まれてママ友は出来たんですけど、ママじゃない自分として繋がれる場はあまりありませんでした。
つなぐばが出来て、この場所に来る人たちは、友達っていうよりは「同志」っていう感覚が大きいんです。まちのために一緒に動く人が増えたり、つなぐば拠点に幅広く関係する人がいて。
今では70人くらいの人が関わっていますが、その人たちとのやりとりが一番助けられる所でもあります。一番楽しい部分でもあり、大変な部分でもあります。
あとは、子供たちに対しても、自分の居場所が学校だけじゃないし、学校が合わなかったとしても自分を否定しないような場所を作れて居るんじゃないかと思っています。

ーー店内の内装も本当に素敵ですよね。工夫している点があれば教えてください!

お母さんと子どもたちは店内で過ごす時間が長いので、断熱して快適に過ごせるようにしています。内装にも取り壊されてしまう地域の建物から資材を頂いたものも活用しています。
地域の想いを継承していこうという思いもあり、なるべく地域で使われていたものを使っています。そうすると、来た人が懐かしいって思ってくれるんです。家族のような関係性を感じられるような場所を考えながら内装や空気感をつくっています。

ーー小嶋さんとの出会いについて教えてください。

2016年に、「草加リノベーションまちづくり事業」のイベント『リノベー ションスクール』の第1回目があって、小嶋さんと同じチームになりました。空き家を使った事業提案をするっていう内容で、「子連れで働けるシェアアトリエ」というプランが出たことがきっかけで、つなぐば家守舎という会社が誕生しました。
私自身、共感している人と動くのが大事だと思っていて、小嶋さんとは求めているものがすごく近かったので、一緒にやっていけるなっていう思いがあって、会社を一緒に始めました。

ーー小林さんとの出会いについて教えてください。

第1回目の入居者募集説明会から来てくださっていました。本人はコワーキングスペースを探して、検索したらつなぐばが出てきたって言っていました。
最初の募集の時も、私達も子連れで働けるといっても子育てしているお母さんじゃないとここに入っちゃいけないっていう訳ではなかったんです。なので、子連れで働くっていう環境に理解がある人だったり、当時子育てが落ち着いた世代の方もいて。
最初は、国税局の人がなんで?!って感じだったんですけど、感性が豊かというか、全然面白い人っていうか、最初のイメージと違ってすぐ溶け込んだんですよね(笑)。小商いしてる方の中には、お金に弱い人もいらっしゃるんですよね。確定申告の時期にヨシコバさん(小林さん)に講座を開いて貰っています。扶養の範囲内で働きたい人も多くて、どういう働き方がいいか相談に乗ってもらったり、つなぐばの利用者の中でも、お金が心配な部分には小林さんに入ってもらったりして、持ちつ持たれつの関係性です。

ーー6月で5周年とのことですが、長く続けていくコツはありますか?

やりたくないことはやらないことですかね。この場所を利用して貰う時に全員の方と面談してるんですよ。なので、この場所の想いに共感してくださるのが第一で、もちろん皆さん仕事なので利益は大事なんですけど、自分だけの利益を一番に求める方には御遠慮してもらっています。自分が働くことで地域と繋がったり、人と繋がることを大事にしている人に来てもらいたくて。
やりたくないことを会社のためとか地域のためにやろうとしても長続きしなくて、長い目で見るとやらなきゃよかったと思ったり、上手くいかなくなってしまいます。最近は、自分が純粋にやりたいことをメインにやって、やりたくないことがあったらその作業が好きな人、または得意な人にお願いしているという状況です。

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