【アートの力 泣くよかひっ跳べ】ゲストインタビュー③
ガラスクリエイター 齊藤ちひろ(さいとう ちひろ)さん
大学卒業後、写真館でデザイン職についていた齊藤さん。ガラスに触れないフラストレーションを感じていた中、教授経由で中根さんから薩摩切子作りの声がかかりました。
齊藤さんは当時、関東の実家で暮らしていたため、ご両親や友人からは「わざわざ鹿児島に行かなくても」と言われたそうです。それでも、夢だったガラスの仕事をするために鹿児島へ行くことを決意しました。
【鹿児島へ行くまで】
Q:具体的にどんなお誘いがありましたか ?
卒業する前くらいに「カットの仕事をしたい」って言っていたことを教授が聞いていたらしく、私が仕事をしていないんじゃないかと心配して、中根さんに声を掛けたらちょうどカットの人が足りないということで、そこから話が私に来たという感じです。
Q:鹿児島に行った決め手は何ですか?
ガラスの仕事がしたくても就職先が見つからず、広告業に逃げたみたいなところがあったんです。それで仕事をしながら作家活動とか、そういうことをしていこうと思って働いてはいたんですけど、やっぱりあんまり時間も取れなくて、ガラスに触れないストレスみたいなものが積もりに積もっていたところでのこのお誘いだったので、わりと「あっ、じゃあいこうかな」みたいな、軽い気持ちでOKを出したところがあります。
九州や鹿児島との縁は全くありませんでした。昔、本で薩摩切子があるっていうのは知っていて興味はあったのですが、もう絶滅したって書いてあったので行ったことは無かったです。
Q:周りからの反対はありましたか?
まずは両親。その時は実家暮らしだったんですけど、「切子なら江戸切子もあるし、鹿児島に行かなくても」みたいな。後は友達から「遊べなくない?」みたいな反応でした。
押し切った、じゃないですけど、行ってみるだけいいじゃんみたいなことを言ってごり押しで鹿児島行きを決めた感じです。
Q:鹿児島に行くお誘いがなければ前職を続けていたか、それともどうしてもガラスをやりたくて動き出していたと思いますか?
ちょっと仕事も辞めたいなと思っていた時期だったので、動いていたとは思うんですけども、多分もう2、3年ぐらいは経ってたんじゃないかなと思ってます。鹿児島に行くことは全然考えてなかったと思います。都内でガラスの仕事をやっていたかもしれないですね。
【薩摩切子について】
Q:薩摩切子の良いところ、薩摩切子やガラスのどこに魅力を感じているかを教えてください。
個人的には「クリスタルガラスの輝き」です。うちで薩摩切子に使ってるガラスは他の耐熱ガラスとかとは違って、鉛が入っているクリスタルガラスというガラスを使っていて、それは他のガラスに比べて結構屈折率の強い、カットするとキラキラ輝くガラスで、最高だなって思ってますね。なんかすごくいいんですよ。おいしそうというか、「ガラスガラス感」していてすごくキラキラしていて、それを活かせるなと思ってます。
色については、特にうちのガラスは明度が高いというか。「金赤」っていう色があるんですけど、他のガラス業界では、結構ピンク寄りの赤なんですね。金を使った発色はしてるんですけどピンクよりの赤で、うちの金赤って結構オレンジ寄りの赤ですごく発色も良いんです。色も結構色々あって、黄色とか他にない色とか、調合の人が専門にいて頑張ってやってくれてますね。
Q:斉藤さんの推しの色や、初めて薩摩切子を見る人に勧めるとしたら、どの色でどんな感じのものをまずは手に取ってほしいと思いますか?
やっぱり金赤ですね。私の好きな色はオパールなんですけれども、人に勧めるとしたら、金赤のグラスを勧めると思います。
Q:こだわっていることはありますか?
私はグラス型が多いのですが、そのグラスの口元、口が合った時の斜めの所に必ずカットが入るんですけど、それって飲むと、ちょっと口当たりが悪いというか。ちょっとカクカクしてる感じに当たるので、私はそれを絶対滑らかにするようにしています。勝手にやってるんで、怒られるかもしれないですけど笑。グラスとして活かすというか、グラスとしてのものを出したいので。口当たりとか悪いものは出したくなくて、なるべく気をつけています。
Q:「こうしたらもっと薩摩切子がよくなる」と思うものはありますか?
中根さんと私はちょっと考え方も違ったりはするんですけど、個人的にはやっぱり江戸切子に比べて知名度がそこまで浸透してないというのが一つあります。それから、これは仕方ないことなんですけれども、ガラスに関心のある人が会社の中でちょっと少ないから、もうちょっとガラスに興味持ってほしいなと思っています。みんな切子とかは好きだけど、ガラス全体に対しての興味がちょっと薄いかなと感じていて、そこを広げていけたらなとは思っています。
Q:薩摩切子がどんな状態になったら嬉しいですか?理想像はありますか?
鹿児島の人に誇ってもらえるものになることですかね。復活したのが35年前とかで、それから今に至るまで中根さんのおかげで、わりと普及したところはあるんですけど、やっぱりお値段的にも薩摩切子は高いというイメージがあって、県内の人からはちょっと敬遠されがちというか、どうしても観光客向けになってしまうんです。
お値段については、例えばおちょこが3万円台ですね。ちょっと大きくなると5万とか。だから観光客向けで良いとは思ってはいるんですけれども、それを鹿児島の人がオススメできるものになれば良いんじゃないかなと思ってはいます。
Q:薩摩切子の伝統で守りたいところと進化させたいところを教えてください
やっぱりデザイン的なところから、切子のデザインを新しくするとかじゃないですけど、何て言えばいいんですかね。やっぱり30年ぐらい続けてしまうとかなり重複してきていて、何か新しいデザインを出しても、そのデザインをする人にもよるんですけれども周りと重複してきていて。見て「薩摩切子だ」って分かるようにはしてはいたいんですけども、一方で、新しいデザインにもなってほしいなとは思っています。すごくこれが難しいんですけど。
Q:デザインとしてやってみたいものありますか?
2つぐらいデザインさせてもらってはいるんですけど、結構幾何学的なところが切子のデザインではあって、それを崩すような自由曲線みたいなものを、最近はわりと出てきてはいるんですけれども、それをもっと突き詰めていけたら良いんじゃないかなとは思っています。
Q:これは江戸切子には負けない、薩摩切子の方がすごい!というところはありますか?
まずは色、というか、結構江戸切子は薄めのグラスが多くて、薄く着せてカットを入れることで繊細なものを出すのが魅力なんですけれども、薩摩切子は色を2層とかに重ねてがっつり彫るっていうのがあって。その色の濃さとかは、やっぱり目を惹きつけるんじゃないかなと思っています。それでコーディネートが成り立つかというとそうではないのですが、個としての美しさみたいなものはあるんじゃないかなと思っています。
武蔵野美術大学工業工芸デザイン学科を卒業。
卒業後は写真館で広告などのデザイン職についたが、1年弱のところで教授経由で中根さんの方からお誘いがあり、鹿児島へ。