【アートの力 泣くよかひっ跳べ】ゲストインタビュー②
鹿児島県立美術館設立を考える会 会長 宮永祥子(みやなが しょうこ)さん

宮永さんは、ムサビOB街歩き会で知り合った方々からさまざまな刺激を受け、自分にも地元にできることがあるのではないか?と考えるようになったそうです。
そして、「鹿児島県美術館設立を考える会」設立当時に、副知事を務めていた女性の中村かおり氏とお話した際に、「鹿児島県は女性のジェンダー問題が周回遅れだ」と聞いた後、初代会長から「美術界から女性を送りだそう、頑張りなさい」という風に言われ、不安をかかえつつも、「鹿児島県美術館設立を考える会」の会長となることを決意したそうです。

【美術館設立について】

鹿児島県立美術館設立を考える会

Q:美術館設立を考えようとしたきっかけはなんですか?

私は武蔵美卒業後、武蔵美通信の田村 裕教授率いるOB会街歩き「田村会」によく参加していました。この会は、不定期に約2ヶ月に一回、年イチ泊まりで遠方に行くという会で、もう10年以上続いています。田村先生は「デザインリサーチ」授業の教授で、赤瀬川原平、今和次郎、荒川修作らの考現学、「超芸術」や「トマソン」の流れを組む路上観察学の教科です。
そうこうしているうちに、鹿児島と関東を行ったり来たりして、年に100以上の展覧会を見るようになっていました。田村会メンバーの方々とFBで報告しあったり情報交換をしたりするようになり、楽しくただただ個人的な鑑賞を深めていただけなのですが・・・
ふと、鹿児島県では県都に活力のある、今のアートに触れる機会が少ないことが気になってきました。私自身は、他県や都内で刺激を得ることができますが、次世代を担う子どもたちをはじめ、移動のままならない方々はどうだろう?また、鹿児島県の魅力はうまく可視化できているのか?コロナ禍、もどかしい気持ちが加わり一層その想いが強くなって来ました。
鹿児島県民は熱い県民性があるといわれます。私もやや鹿児島愛が強い方かもしれませんが、周りにも熱い方々が多くいらっしゃいました。ちょうど、鹿児島市街地を中心に再開発の流れがあり、いま声を上げないと、美術振興が遅れた魅力に乏しいつまらない中規模都市になってしまうのではないかという危機感がありました。将来の鹿児島を憂いた美術関係の方々とも交わるうちに、初めて県美術協会、デザイン協会、写真協会、書道協会など団体の長が心を一つに、「鹿児島県立美術館設立を考える会」の活動が起こりました。

Q:美術館と街づくりの関係をどのように捉えていらっしゃいますか?

従来の美術館は地域美術の宝があり、それらを保存、調査することが主な役割でしたが、今は他にもたくさんの役割があると期待されています。例えば、図書館との複合施設のような施設だったり、博物館や音楽ホール、ホテルや商業施設などと掛け合わせた街づくりや、人流を生み出す美術の拠点等です。そのアートを通じた“場”の力は、経済や観光面だけでなく次世代の人材育成や社会福祉、社会的包摂や共生社会というものにまで広がっており、地域に必要とされてきています。
また、2022年3月に、私どもはシンポジウムを開催しました。登壇した先生方のうちの一人、武蔵美の芸文教授の新見隆先生がおっしゃった中で「学校や企業などで絶対に学べないものが一つある。それは、私はあなたと違う、私は私、あなたはあなた、一人一人が全く違う人間なのだということ。そのことを学ぶ唯一の場所が美術館。美術館は心の道場であり癒しの場。」という言葉がありました。これも美術館に求められる役割だと思っています。
では、従来の美術館以外の機能を、いかに多く施設内に持たせるか?ですが、よく美術館は「ハコ・ヒト・モノ」といわれます。ハコとモノを揃えても、人が集い繋がれなければ意味がありません。なので人が集まりやすく、交われる場所にないといけない、ということがまず一つあります。多感な10代以上の子どもたちが、自力で自主的に行ける場所というのも大切かもしれません。

【自身の活動について】

2022年度校友会鹿児島支部展「む展」集合写真

Q:自分の強みはなんだと思いますか?

人を恐れないところはあるんですよ。基本的にどんな方とお話しても緊張しないというのは、ちょっと得なところかなと思ったりしますね。いろんな人が絡み合い、繋がりができていくことに好奇心の方が勝ってしまい、出会いや広がりが楽しくて仕方ない。アートの世界も割と狭く繋がってるところがあるので、人と人との出会いを大切にしたいなといつも思っています。

Q:ご自身の仕事やアートに対するこだわりを教えてください。

ムサビの校友会で先輩方が最初すごく温かく迎え入れてくださって、人をたくさん紹介していただいたし、自分のことも紹介していただいたので、やっぱり自分もいろんな方を紹介したいなと思って行動しています。興味深く面白い活動をされてらっしゃる先輩方がたくさんいらしたんですけど、強さの中にどこか憎めない、キュートさを持ったお歳の取り方をしている方が多かったので、自分もそういうおばあちゃんになりたいなと思っています。
 他には、人に信頼される自分であるようにっていうことでしょうか。ただ『あの人知ってる』じゃなくて、信頼できる人と思ってもらえるように努めています。今、SNS内の社会では自分と受け手は一対多なんですけど、そんな中でも人間関係の基本は、一対一だし、それが人の心に求められているのじゃないかなということは、気をつけています。

Q:現在のお仕事に関わっていてしみじみよかったと思ったことは?

日々小さなことでも、良かったなあと思えてるんですよね。
今まで私の話だけをしてましたけど、この「鹿児島県立美術館設立を考える会」のメンバーには、それぞれいろんな方がいらっしゃって、各人が特殊能力というか、できることが違っていて、それが結集すると本当にすごい力になるのを何度か目撃、体験しました。
皆さんご存知か分かりませんけど、「サイボーグ009」って石ノ森章太郎さんのマンガがありまして。001から009まで特殊能力を持った人材が活躍するお話しなんですが、まるで考える会のメンバー一人ひとりが特殊能力を持ったヒーローのような活躍ぶりで、人って本当にその人にしかできない何かがある!と心から実感して、そんな瞬間が嬉しくワクワクする日々を過ごしています。
思い込みかどうかわかりませんが、私は今まで人生を自分で選択してきたようで、実は目の前に選択できる飛び石がそこにあって、導かれただけなのではないか?というような気がしたり、パズルのピースがひとつ一つ埋まっていくような不思議な感覚を感じたりして、来た道がこの道に続いていたのか、やってきたことが結実したように思う瞬間にも出会えたり、これが自己実現ということかしら?と思ったりします。全ての人にそんなモノ、瞬間があることが幸せで良い人生なんじゃないかって、しみじみ強く思います。

Q:ご自身の活動に関して、苦労されている、もしくは葛藤に思うことは何ですか?

具体的に建物を建設する、美術館を設立するとなると、相当多くの方々に応援していただき協力していただかなくてはならないとは思います。実際話を進めると、それぞれの立場から多様な意見も出てくる。そんな中、それらを重要視しながら芯の部分、なぜ美術館が必要か、その思想の部分はぶれてはいけないと思うんです。
今の世の中って、SNSなどで人々の情報処理能力は速くなったようですが、反面、例えば本を読むこと、深く物事を考える時間は少なくなっているんじゃないかなあ。そんな中、ちゃんと意識して深く考える時間、熟考する時間とかを積み上げ深度を深めて、熟成、発酵させたりして、美術館は作っていった方が良いのではないかと思っているんです。立場が違うと異なる意見があって、日々発見もあります。たまに、「本当に美術館が必要なのか?」と自問をしつつ、多様な意見を受容しつつ、どこかの時点である一定の方向性を出すが芯はブレないという非常に難しい問題に取り組んでいるという葛藤は常にあります。それらを乗り越えて、より良いものを目指そうと思います。

Q:女性が外で活躍していくために、鹿児島をどう変えていきたいと思いますか?

鹿児島の平日のバス停には女性しかいなくて、東京から遊びに来たいとこから「気持ち悪い」と言われて、ショックを受けたことがあります。人口比では鹿児島は女性が極端に多いにもかかわらず、2022年版ジェンダー・ギャップ報告で、鹿児島県は男女平等度が国内調査で政治46位、経済39位で最下位レベルです。なので本当は、鹿児島県は女性の意見が大きく反映され、女性が元気な県であって欲しいなといつも思っています。海外や他都道府県を旅すると、女性の笑顔が多い地域は平和で安全でフェアで、高次な文化的な地域だとすぐわかります。
鹿児島では女性の意見が反映されにくいとよくいわれます。女性だけの場じゃないところでは意見が出にくい。男性から女性が発言することに対して「生意気だ」というような見方や反応もあります。昔は、女性は女性だけで集まり群れる傾向があり、意見をまとめた代表者がそれを男性へ伝えるというような構図もありました。これからは、男女双方から価値観の進化が求められていると思います。
現在では若い世代を中心にLGBTへの理解も深まり、どんな人の中にも女性性と男性性の、どちらも備わっていることも浸透しつつあります。社会で女性がもっと活躍するために、“決めるのは男性たち”といった女性側の、厭世や、役割や権利を放棄していたような面の意識改革も必要ですし、社会にも、変わる女性達への暖かい理解をお願いしたいです。海外や他都道府県の女性と交わり、学ぶ機会があってもいいかもしれません。果敢に新しい価値観をもち、折れやすい一本気でなく、柔らかくしなやかな竹のような強さで行動する女性像を「シン薩摩おごじょ」と名づけ、この思想を提唱していきたいと思っています。
人って、実は感情の生き物ではないでしょうか?例えば、かわいいとか柔らかい、自然を感じさせるとか癒されるとか居心地が良い、そういう心地よい感覚や感情に訴求する場所に人はいたいはずだし、実際集まってきているじゃないですか。もちろん論理的合理的な思考はとても必要です、そこに女性を感じさせるようなデザインやアートを加算させる、掛け合わせる、そうすることによって、もっといい鹿児島になればいいなと思います。

【おわりに】

Q:さいごに、ムサビ通信生にアドバイスがあれば、お願いいたします。

皆さんがムサビ通信にご入学された一歩って、それ自体がものすごい勇気とチャレンジだと思います。まずはご自身を日々称えてください。そして次に、お隣さんに興味をもってみてください。お隣さんも、またきっと勇気あるチャレンジャー。とても面白い隣人ではないかと思います。
ムサ通での出会いを大切に!!これを本当に声を大にして言いたい。
私は、もちろん通学している時からでしたけど、卒業後最初にご紹介をした田村裕先生が街歩きに連れていってくださった。そこに集った面白く活動している仲間から受けた刺激っていうのは、本当に大きかったです。多種多様、経験も年齢も才能もそれぞれ、いろんな発想力やこだわりがあったり、個性的な特徴を持ち、動いている仲間。ぜひ今後も一層お仲間とのつながりを積極的に活かして、先生方ともどんどんつながってみてください。

本当に人生を変えたい、進化したいと思ったら引っ越しするとか学校にいくとか、そういう具体的な新しいアクションや、それをポジティブに活かし繋げる行動がきっとためになると思います。


鹿児島生まれ、鹿児島育ち。大阪芸術大学を卒業し、就職を機に鹿児島へ戻る。
結婚後、主婦として育児を終えたのち、学芸員資格をとるためムサビ通信へ編入。平成24年卒業。
現在は会社役員の傍ら、鹿児島県立美術館設立を考える会の会長を務める。

鹿児島県立美術館設立を考える会