武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業の井上岳さん。
在学中に、自身の作品を「アートサイト八郷」に展示したことがきっかけで、八郷と縁が深まり、移住しました。
石岡市の地域おこし協力隊の一期生として活動後、現在は、上林製材所で山と人をつなぐ活動を行っています。

建築学科志望から、八郷に移住するまでの経緯


Q:なぜ、建築学科を志望したのですか?

高校入学の頃は、漫画家になりたかったのですけど、親に怒られるイメージがあったんですよね。それで志望職業調査の時にフェイクで建築志望ということにしました。普通に一浪してその間に建築も面白くなってきて、美術大学の建築というところに興味を持って進学しました。


Q:八郷との縁はどういうきっかけでしたか?

武蔵美の課題で作った小さい作品を八郷に搬入に行きました。そうしたら、次の年に運営代表を任されてしまい、どんどん巻き込まれていったという感じです。
活動がとても面白かったし、やりがいも、その「ばしょ」も、人も気に入ったので、このご縁を大切にやっていこうと思いました。


Q:移住の目的は何でしたか?

この土地に住みたくて、地域おこし協力隊に応募したら、たまたまご縁がここにあった、という感じです。
この町を観光名所にしたい、というような目的はありませんでした。


Q:移住した当初、戸惑いはありましたか?

築150年のおばあちゃん家、上林製材所を行き来するうちに、顔の見える関係が増えていったという感じです。
八郷に住めただけで満足でしたから、特に戸惑いはありませんでした。


地域おこし協力隊について


Q:協力隊にはどのように採用されたのですか?

アートサイト八郷で事務局をやっていた4人が、移住してみたいということになったのです。
地域おこし協力隊の募集のことは、市役所の方が教えてくださいました。志望したら、4人一緒に採用されました。任期は3年です。


Q:協力隊では、どのような活動をしましたか?

まず、廃校になった小学校を使った朝日里山学校で、観光体験事業を企画しました。
その後、教室の一角にコミュティカフェを立ち上げました。自分の居場所を作ろうと思ったのです。そこに来てくれる人たちから地域の情報を仕入れました。
協力隊の2年目の終わりぐらいから、BONCHIというシェアスペースを仲間とともに立ち上げました。そこでは、主に移住者やUターン者、近隣の大学生などと交流するようになりました。


Q:協力隊の任期終了後は、どうしたのですか?

製材所のことが気になっていました。それで、給料は木でいいので働かせてください、と言ったら、いいよと言ってもらえました。通い始めて少し経つと、お金で給料を払ってもらえるようになったんです。(嗅覚が)当たったな、と思いました。自分の居場所は、雰囲気とか、人の感じとかで見つけられるのかもしれないな、とその時思いました。


現在の活動について


Q:今はどのような活動をしているのですか?

今は素材に興味があります。現在の製材って、樹齢40~50年くらいの丸太を集めて効率的に柱を取っていくという感じなんですよ。
そういう中で樹齢100年の木は機械のスケールに合わないってことで、山に放置されているんです。
そういうところの風通しをよくして建築用材以外の使い方を模索したいと思って活動しています。
素材とそれを使う人をつなぐ、それも肩肘張らずに遊びながらやりたいなって。


Q:山とか資源に注目したのはなぜですか?

建築に携わっていきたいというイメージは持っていたのですが、建築の材料について知らなかったことに偶然気づいたのです。
自分の価値観がアップデートされるようなことに興味があります。価値観を変えると、いろいろないいことが起こります。


Q:井上さんが面白いと反応するポイントは何ですか?

何か面白い体験ができそうだな、ということを、頭ではなく嗅覚というか、感じたところで、選んでいます。
僕らとかそれより下の世代は、感覚で情報処理しているという感じがあります。


Q:面白いことが次々と起こることについて教えてください

林業は効率化しないとすぐに赤字になってしまいます。例えば、重機を入れるのに相当費用がかかります。
そこで、親方と一緒に、木や山の利活用について考えています。
木から丸木舟を作ったり、丸木を輪切りにして1000個単位でフラワーショップに納品したりもしています。
今では、山で、あの木は何になるかという視点で見るようになりました。プロジェクトが次々と沸き起こっていくことが面白いです。


Q:何かビジネス的なことを探すみたいな感じでしょうか?

そうですね。生活にすぐに役立つこと/今は収入にならないけれど、そのうち仕事に活かせそうなこと/遊び、という3つのバランスを考えながら、やっています。3つに明確な境界線はありません。


Q:活動してきて、しんどかったことはありますか?

何をやっているのかわからなくて、先が見えなくなる時はしんどいです。そういう時は、脱出するか、環境を変えるか、ですね。
自分でやるぞ!と思っているときは、それがたとえうまくいかなくても、メンタルがやられることはないですね。なにくそ精神みたいなのがありますから。


Q:後輩へメッセージを送るとしたら何かありますか?

自分のことを、常に俯瞰してみることですね。
やりたくないことはわかるので、やりたくないことをやる状況に置かれているのなら改めた方がいい、と伝えると思います。嫌だったらやめる方がいいです。


井上 岳(いのうえ・がく)略歴

1991.3.19 愛知県生まれ
2014.3月 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業
2017.3月 大阪市立大学大学院 工学研究科 都市専攻 前期博士課程修了
2017.4月 石岡市地域おこし協力隊スタート
2020.3月 地域おこし協力隊卒業
2020.4月〜 上林製材所所属。「ながらプロジェクト」、「BONCHI設計室」、「BONCHI」の運営、「おばあちゃんち探検隊」
2022.4月 「八郷ゼミ:ダヴィンチ橋WS」大重さんと共に企画。

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